銃声が必要な曲

 音楽の都・ウィーンで活躍し、『ワルツ王』と称されたヨハン・シュトラウス2世は、数多くのワツルやポルカ、行進曲、そしてアペラを作曲している。
 そうした作品の中に自身のオペレッタ『ウィーンのカリオストロ』の旋律をモチーフにしたポルカ『狩にて(狩り)Op. 373』がある。
 軽快なリズムに乗った親しみやすい曲であるが、この曲が有名なのは演奏の中で銃声を入れる事が多いからだと思う。
 ただし、打楽器の楽譜には銃声を入れる箇所の指定は無いし、『銃』というパート譜も存在しない。それでも、ウィーン・フィル恒例のニュー・イヤー・コンサート等の演奏では、打楽器奏者が銃を持って登場し、結構派手に銃声を演奏している光景を見かける。


 この銃声、日本で行われる演奏会で圧倒的に多く使用されているのは、陸上競技等でスタートの時に使用するピストルを撃つ方法である。
 この競技用ピストルは、『トーエイライト』『エバニュー』『ニシ・スポーツ』等のメーカーから発売されており、紙式の雷管(火薬)をセットして音を出す仕組みで、単発式と双発式(フライングの時など連射する)がある。
 ネット上を調べてみると、名古屋フィルハーモニー交響楽団の打楽器奏者・荒川さんのHP『打楽器の演奏法』の中の『演奏雑感』の文中に、
「運動競技会などで使う二連式のピストルを使ったが、音量 が大きすぎるので使っている火薬量を減らそうとしていたら火がついて、指に水ぶくれができてしまった」
「以前演奏した時、耳元近くで撃ってしまい何ヶ月も耳鼻科に通 った」
 等の内容の文章があった。
 続いて
「これから『狩』専用の火薬を特注しようと思う。ついでにダイナミクスも表現できるように火薬の量 を調整できれば便利かも」
 と書かれているのには『さすが!』と思った。

 競技用のピストルには、こうした昔ながらの火薬を使うピストルの他に、スピーカーに繋げて発射音等を鳴らす『電子式スターターピストル』という商品もあるので、火薬が使えない会場であれば、これを使う事も選択肢に入るのかもしれない。
 勿論、音源サンプリング方式のシンセサイザー等を使うという手もあるのであろう。
 しかし、これらの方法では、音はともかく、見た目はあまりスマートでは無い気がするのは私だけだろうか?
 楽器としてモデルガンを検証する

 そこで『使用楽器』として浮上してくるのが『モデルガン』である。
 現在日本で合法的に販売されているトイガン(おもちゃの銃)というのは、外見も構造も本物そっくりに作られており、火薬をセットする事が出来る(出来ないモノもある)が、弾は出ない『モデルガン』と、外見と動きは本物そっくりだが、本体内にガスやスプリングの仕掛けがセットしてあって、BB弾というプラスチックの丸い弾を発射する事が出来る『ガスガン・エアガン・電動ガン』に大別 出来る。
 勿論、これにはヒーロ物の主人公が持っている様なキャラクター系の銃は含まれていない。
 こうしたトイガンを楽器として使用する場合、当然弾など発射する必要は無いし、演奏中に打楽器奏者の所から弾が飛んで来るのは他のメンバーが迷惑であろうから、必然的に弾が出ずに火薬を使用して音が出る『モデルガン』を使用する事になる。


 では、モデルガンなら何でも演奏に使えるかと言うとそうではない。
 実際の銃は、大別(色々の考え方があるのだけれど…)すると拳銃と小銃に分類出来るのだと思う。そして拳銃はその仕組みから、回転式のシリンダーに弾薬を詰めて発射するリヴォルバー式と、弾丸を発射した反動を利用して空になった薬莢を銃の外に排出するオートマチック式に分けられる。
中央の回転式シリンダーに銃弾を込めて使用するリヴォルバー式拳銃 シリンダーが回転して連続して撃つ亊ができる。使用済みの薬莢は、全て撃ち終わってから排出する
 
グリップ部分に銃弾を込め、発射の反動で使用済みの薬莢を銃の外へ排出するオートマチック式拳銃 薬莢の排出の状況の写 真を入れたいけど・・・
 準備中

 モデルガンでは当然銃口から弾が飛び出す事は無いのだが、オートマチック式のモデルガンは、銃を撃つ度に空になった薬莢は実銃同様に銃から外に向かって排出されてしまう。
 この方が本物の銃をリアルに再現した事は間違いないのだが、周囲に楽器が置かれた状態で『楽器』として使うには、周囲に金属の薬莢がバラ播かれるのはかなり問題が多いので、使用するのであれば拳銃タイプであればリヴォルバー方式という事になる。

 ただ、本当の狩りで使用される銃は主に小銃の方で、ライフル銃や散弾銃が使用される。
 演奏する曲が『狩り』をイメージしているのであるから、モデルガンもこうしたライフルや散弾銃を使用したいのであるが、エアガン・ガスガン全盛の現在、発火させるタイプのライフルや散弾銃のモデルガンで入手か簡単なモデルは本当に数少ない。
 一番入手しやすいのが、西部劇で良く使われているウィンチェスター銃であるが、この銃ではあまりにも西部劇のイメージが強すぎる上に、オートマチック拳銃同様にレバー操作によってで金属製の空薬莢が銃の外に排出されてしまう。

 その他ではライフル狙撃銃も発売されており、雰囲気的にはこれがピッタリなのだが、比較的高価な上にやはり使用済みの薬莢が銃の外に排出されるという問題が発生する。
 散弾銃タイプも殆どが空の薬莢(カートリッジ)を銃の外に排出するタイプであるが、中には水平2連式の散弾銃というタイプがある。このタイプは中折れ式で、弾込めの方式は手動なので空薬莢を辺りにバラ播く事は無い。
銃身下の部分を前後させる事で弾を送り込むポンプ式散弾銃
 

 という訳で、演奏に一番向いているモデルガンはこれだと思うのだが・・・
 どうもメーカーで品切れの様である。また同じシステムで、銃身とストック(肩当て)を切り詰めたモデルガンを所有しているのだが、大変残念な事に『不発』が多いのである。
 実際の銃でも『不発』というのは深刻な問題だと思うが、演奏会でも『不発』はかなり深刻である。
 そういう面では、少々クラシックなタイプのリヴォルバー式の拳銃を使うのが一番安全なのではないだろうか。

 おもちゃの銃を使うという方法

 まあ今まで長々と書いてきたのは、ハッキリ言ってしまうと半分は今頃になって『モデルガン』を買い始めてしまった言い訳であるが、演奏の上でもっと経費を掛けずに銃声を『演奏』するのには、『おもちゃの銃』を使うという方法がある。
  『おもちゃの銃』と言っても、元々モデルガンだって『おもちゃの銃』なのだけれど、ここで言うのは子供向けのオモチャの亊である。

 昔、駄菓子屋等ではリボン状になった紙火薬を使用する『おもちゃの銃』を売っており、子供は空き地等でそうした銃を持って「パンッ! パンッ!」と派手に発火させて遊んでいたものである(違うかな?)。
 そんな『おもちゃの銃』を手に入れるには、今流行りの『昔の駄菓子屋を模した店』等へ行くと、店の片隅にそうした『おもちゃの銃』を売っている。
 ただ、紙火薬に関しては、発火の確実さを考えると、あまり演奏会に向いているとは言えない気がする。

 そうした時、100円ショップで発見したのが下の写真の銃である。

一応リヴォルバー式だが、中折れタイプで火薬は8発セットできる。当然だが100円である。 こちらが火薬である。8発セットが12個付いている。こちらは銃とは別 売りだが、やっぱり100円


 手軽で、ほぼ確実に発火する(不発が無い)ので、演奏にはとても向いていると思う。
 ただ持ってみると、実際の銃と比べていかにもオモチャらしく見えてしまう。そして、もう一つ問題になるのは、1回の演奏で8発も銃を撃つ必要があるかどうかである。

 『狩にて』のパート譜には、どこにも『銃』の記譜は無い。
 だからと言って、タイコ奏者が好き勝手に銃を乱射して良いかと言うと、勿論そんな亊は無い。
 当たり前であるが、どこで、何発撃つかは指揮者の好みによって決まるのである。

 2007年に清水フィルで演奏した時には、指揮者は銃に関して次の様な注文を出して来た。
「指揮者が出て来る前に撃ち始めて、あちらこちらから銃声が聞こえる様にしたい」
「できれば長い銃を使いたい」
「中間部と最後の部分も派手にバンバン撃ちたい!」
 一応私としては、
「指揮者も撃ちながら入って来るのは?」
 と尋ねたが、それは拒否されてしまった。

 そんな訳で、その演奏会では上に写真を載せた散弾銃タイプの銃を始め、リヴォルバータイプのモデルガンを2丁、そして『おもちゃの銃』3つを使用して、本当に派手に撃ちまくった。

 しかし、金管のメンバーに預けた銃は全弾撃ちきれず、未発火の火薬が残ったまま返されて来た。
 後日メンテナンスをしながら自宅で発火させて処理したが、近所から何か言われるかとビクビクしてしまった。

 
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