ペダル式ティンパニー

 前のページにも書いたが、足下のペダルを使ってリムに連動したワイヤーを引っ張り、音程を変える仕組みの楽器が「ペダル式」の楽器である。
 私が中学生だった頃は、ペダル式の楽器と言えばアメリカのラディック社の物か、日本のパール社の物しかなかった。(現実には他のメーカーもあったのかもしれないが、中学生にはそんな情報は無かった)
 そして、私が通っていた中学校も高等学校も手締めの楽器であった。
 大学のオーケストラに参加して最初に叩いたのは、パールのペダルティンパニーであった。しかし、あまりコンディションが良いとは言えずに歯痒い思いをしていたが、暫くしてラディックのペダル式の楽器2台を購入してくれ、そこで初めてちゃんとしたペダル式の楽器を叩くことになった。

 一口に「ペダル式」と言っても、このペダルのシステムには幾つかの方式があって、ペダルをどのようにして固定させるかという亊で分類すると、バランス・スプリング方式と、クラッチ式に分けられるのだと思う。

 

 バランス・スプリング方式というのは、ペダルの駆動部分に大型のバネ(スプリング)が仕込んであり、そのバネの力とティンパニーのヘッドの張力のバランスで、どの部分でも自由にペダルが止まるというシステムだと言うが、詳しい亊は専門家では無いので良く解らない。
 左の写真はヤマハ社のペダル部分であるが、つま先側を踏み込むとワイヤーが引かれピッチが上がり、逆に踵側を踏むとピッチが下がる。
 使いやすく、私は好きなのだが、楽器のチューニングの状態を変なふうにセッティングしてしまったり、スプリングのバランス調整ネジを変にいじると、バランスの状態が崩れてペダルが止まらなくなったりしてしまう。

 もう一つのクラッチ式は、任意の位置でクラッチをオン・オフにして、ペダルを固定する機械的な方式である。クラッチの方式にはペダルの前後に力を入れるタイプと、ペダル横のクラッチを足の横で操作するタイプがある。

 右の写真はイギリスのプレミア社のペダル部分であるが、まずつま先を踏んでクラッチを外してから、ペダル全体を踏み込むようにしてピッチを上げる。逆にピッチを下げる時には、力を抜いてペダルを上げ、希望するピッチになった所で踵側を踏みクラッチでペダルを固定する。
 上のバランス・スプリング方式がペダルの中心を支点に前後に動くのに対し、こちらはペダルそのものが上下する。
 ペダルを確実に固定するという点では、バランス・スプリング方式よりは格段に安定しているが、微妙なピッチの調整という点においては、ちょっと難しい場合がある。

 

 この他にも、より高価なシステムとして、リンガー・タイプというものがある。
 私は実際にそのシステムを使用した亊は無いが、理屈はクラッチ・タイプに近いものの、プラスチック・ヘッドよりも張力の強い本皮を使用することを前提にしてシステムであるため、より堅牢な作りになっている。
 勿論重量も重く、価格も高価になっているので、あまりお目にかかる亊も無い。

 普段私が使用する亊が多いのは、自分が所有しているバランス・スプリングの方式であるが、静岡音楽館AOiではホール備え付けの備品としてのティンパニーがクラッチ方式のプレミア社の楽器であるため、年に何度かはその楽器も使用する。
 どちらが良いかでは無くて、楽器を運ぶ苦労を厭わないかどうかという亊かもしれない。