オーケストラや吹奏楽で使うタイコは誰のもの?

 私は今まで色々なオーケストラや吹奏楽団で演奏させてもらってきたが、その団体が所有しているパーカッションの数や種類は、基本的にはその団体の財政面 よりも、保管場所の有無や練習会場、そしてタイコ叩きの人数や影響力によって大きく違ってくると思っている。

 これから先の話は、アマチュアを前提にしているのは勿論だが…
 私の今までの経験で、一番楽器に関して恵まれていると感じたのは、ある地元の市民吹奏楽団である。
 この団体は、高等学校の吹奏楽部の部室や練習室で練習会場にしているのだが、打楽器に関しても基本的にはその高等学校の楽器は全て自由に使用させてもらっていた(のだと思う)。
 楽器そのものは、高等学校の所有であるから、団では打楽器を持っていないのかもしれないが、練習でも本番でも自由に使えるのだから、沢山の楽器を所有しているより恵まれている様な気がする。

 本当に、団体では何一つ打楽器は所有していない場合もある。
 こういう団体には、基本的にはタイコ叩きのメンバーがいなくて、打楽器の手配やパートの振り分けなども全てエキストラにお任せ…という状況である事が多い。
 これは結構負担が多い。 

 まあ、市民オーケストラの場合、一般的にはティンパニーやバスドラ(大太鼓)、シンバル等は団で所有していて、その他の楽器は個人持ちという場合が多いのではないだろうか。

 ちなみに、現在私が所属している2つの団体では
 片方は団でティンパニー(マシン式)3台、バスドラ、合わせシンバル、トライアングル?を所有しており、もう片方は打楽器は所有していない。
 また、大学時代の仲間が大勢いる東京のアマチュアオーケストラは、基本的に団ではやはり何も所有していないが、個人持ちのティンパニー(手締め)3台と、練習場が小学校の関連施設なので、楽器の善し悪しは別 として、小物楽器はその小学校の楽器を借用させて頂いている。

 まあ東京には、打楽器や特殊楽器のレンタルのサービスをする楽器屋や専門店があるし、ホールでティンパニー等を所有している所も増えてきている上に、音楽団体も沢山あるので、本番では何とかなる…というのが現状だと思う。
 しかし、それでは本番まで自分の練習が出来ない事になるし、他のパートのメンバーだって、普段何の音もなかった所で、打楽器がいきなり鳴りだしたら戸惑うのではないだろうか。

 そうした状況で悩みに悩んだアマチュアのタイコ叩きが行う究極の決断が『自分でタイコを購入してしまう』という事なのだ。
 打楽器というのは、一台数百万円もする(数万円のもあるけど)ようなヴァイオリンなどと比べると、金額的にはそれ程高価なものではない(と思う)。
 それでも悩み迷うのは、まず一つは楽器の大きさと保管場所であり、その音量 だと思う。
 それでも、前出の東京のアマチュアオーケストラでは、メンバーである独身のタイコ叩きが「練習場所に楽器を置かせてもらう」事を前提に、ティンパニーを自分で購入してしまったのである。

 タイコ奏者の立場からすると、基本的には毎回同じ練習会場で、その練習会場に打楽器を保管しておけて、楽器の移動に苦労がなく、本番で使用することに何の支障もない楽器を団で所有している… というのがベストな状態だと思うが、これは中学校や高等学校、大学の団体でなければ無理であろう。

 そんな事を考えて、実は私も今から二十数年以上も前の独身の頃、自分でティンパニーを購入してしまった。

東京のオケでマイ・ティンパニーを購入した『彼』は、気の毒な事に現在転勤でそのオケには参加していない。しかし、だからといって楽器を持って転勤先に行くわけにもいかず、今でも『彼』の楽器は練習会場に置かれたままになっている。


 マイ・ティンパニー

 私が最初に買ったティンパニーは、楽器屋で紹介された中古の物で、よく覚えていないがヨーロッパ製の物で、一応ペダルで音程が変えられる物であり、何よりも印象的だったのはハードケースが付いていた事だ。

 その楽器はペダル式ではあったが、足の部分を取り外すことが出来て、その状態でハードケースに入れるのだが、何しろいくら足を外すとは言え、ティンパニーが入るのだからかなりの大きさと重さがあった。
 当然、一人では動かせない。
 二人がかりでもあまり動かしたくはない様な代物だった。
 ましてやそれが2台分あるのである。
 楽器としての肝心な音はそれ程悪くはなかったのだが…

 その当時、国内のメーカーでペダル式の楽器を作って販売していたのは、パール1社だけだった。
 オーケストラや吹奏楽で使われていたペダル式のティンパニーは、殆どがアメリカ製のラディックだったのではないだろうか。
 私が最初に買った楽器は、パール製の物と形も使用も近かったが、造りはずっとしっかりしていた。まあその分恐ろしく重かったのだが…

 それから数年後、ヤマハがペダル式のティンパニーを発売した。
 ちょうど、自分が卒業した高校のOBオーケストラの演奏会の準備に係わり、楽器をどうするか悩んでいた所だった私は、今までの楽器を知り合いに買ってもらって、このヤマハの楽器2台を購入した。

 数年後、サイズの違う楽器を順次買い足して、4台揃えたこの楽器が、メンテナンスをしながら、現在でも私が使っているメインのティンパニーである。
 そして、この楽器を運ぶ為(一度に2台しか乗らないけど)に、私はこのところずっと1ボックスタイプの車にばかり乗っている。

初代の私のティンパニーが嫁いでいったのは山口県である。山口県の市民吹奏楽団に入っていた大学時代のトランペットの友人が、団で購入してくれたのだ。
 それから数年経って、私が仕事の関係で山口県へ言ったとき、その友人と逢って、友人の所属している吹奏楽団の見学をさせて貰った。私が初めて買ったティンパニーは、大切に使ってもらっており、嬉しかったのを覚えている。


 増えていくタイコ

 ティンパニーという、普通では買わない買い物をしてしまってから、タガが外れてしまったのだろうか。
 その後も、演奏会で必要な楽器があると、徐々に自分で楽器を買うようになってしまった。

 まあ、ペダル式のティンパニーはさすがに4台以上増えないし、もう買い替えようなどとはあまり思わないが、もっと小さな楽器の類は、カラフルな楽器のカタログなどを眺めていると、つい欲しくなってしまう。

「今使っている楽器より、こっちの楽器の方が良い音がするかもしれない。もっと良い表現ができるかもしれない。」
 これは、何もタイコ叩きだけが考える事では無いと思う。
 楽器をやっている人は、多かれ少なかれ、もっと良い楽器を弾きたい、吹きたいと思っているのに違いないのだ。
 
 しかし、ヴァイオリンなどの弦楽器や、高額な木管楽器などは、それまで使っていた楽器を、かなりの額で下取ってもらえる場合もあるようだが、それでも高額な楽器をそうそう簡単に買い替えたり新たに購入する事は出来ないのが現実である。

 ところが、パーカッションの場合は少々事情が違う。
 ティンパニーやバスドラ、鍵盤打楽器などの大物は別として、小物の楽器は一つひとつが比較的手が出やすい金額であるのに加え、楽器の種類が様々だからである。

 普通、ヴァイオリンの人はヴァイオリン以外の楽器を買う事は少ない。
 予備のヴァイオリンやヴィオラを持っている人は結構いると思うが、同じ弦楽器だからと言って、チェロやコントラバスを持っている人には、あまりお目にかからない(全種類持っている人もいるのだが)。
 管楽器でも、フルートの人がピッコロを買ったり、オーボエの人がコールアングレを買ったりする場合はあるが、どれも高額な同族の楽器を買う場合である。

 基本的には叩いたり振ったりして音がなるモノは、全てパーカッションである。
 そして、オーケストラで使う楽器だけではなく、ドラムセットやラテン系の楽器、アフリカ系の楽器、アジア系の楽器、和楽器… 欲しい楽器は無尽蔵に広がっていく。
 そして、新素材を使った新製品などの情報を耳にすると、手に取ってみたくなり、音を鳴らしてみたくなり、欲しくなってしまう。  

 どこかで歯止めをかけなければ…
 そう思いながら、楽器店で新しいカタログを見つけると、つい手にして魅入ってしまうのを止められないのである。

私は、タイコ叩き以外のパートでは、オーケストラのトランペット吹きが、一番楽器オタク状態になってしまう確立が高いと思っている。
 B管、C管等の調の違いは当然の事だが、ピッコロトランペットや、古い曲用のロータリーの楽器など、私の知り合いには、かなり本数のラッパを所有している人が多い。
 そして、こうした人達は、しょっちゅう楽器を買い替えるだけではなく、管の内側の一部にメッキをかけるとか、変(私から見れば)な所に手を加えたりしていて、私が「また新しいの買ったの?」と聞くと、嬉しそうにその楽器の特徴を説明してくれるのだ。

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